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ランプ虫と狩人

 ランプ虫を知っているか?
 蛍のことじゃないぞ。水辺でもない夜の森で、青白く光っているコガネムシとクモをあわせたような虫だ。人里にはあまりいないから知らないか。虫の身体だけじゃなくクモに似た巣もきらきら光ってな、そうして羽虫を集めて食っている。たくさんいるところは火神祭のファイヤーロードみたいで本当にきれいだ。思わず捕まえたくなるんだが……今日はそんな虫の話をしよう。
 あるとき、この森へひとりで猟に来た狩人が洞窟で雨宿りをしていた。雨脚はどんどん強くなってな。獲物の処理をしたかったし、陽が暮れてきたもんだから明かりが欲しくなった。でもたきぎを取りに行くのが面倒だし、なにせ夏の盛りだったもんだから火なんざ焚いたら暑くてしょうがないのは目に見えてる。だからたまたま洞窟にいたランプ虫を集めて明かりにしようとしたんだよ。どうなったと思う?
 狩人が捕まえたランプ虫は五匹くらいだった。でもランプ虫はひとところにたくさん集まって大きな光を出すと、餌があるとでも思うのか集まってくる習性があるんだよ。こりゃあいいと狩人は十匹二十匹とどんどん集めていたんだが、そのうち光につられた羽虫が山ほど群がってきてな。刺されるわ噛まれるわてんやわんやだ。
 こりゃかなわんと集めたランプ虫を外へ放り投げようとするんだが、ランプ虫は足元が強く揺れると糸を山ほど吐いてしがみつく習性があってな。狩人がどれだけがんばろうとへばりついて離れないんだよ。明かりを消そうにも相手は本物のランプじゃなく生き物だ。ついでに殺しても半日くらいは光り続ける。
 結局、狩人は大雨の中、虫刺されだらけになって村へ逃げ帰ったよ。
 だからランプ虫は捕まえちゃいけない。遠くから眺めて楽しむのが一番なのさ。


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